DREAMS Award 2013 受賞作品 入賞 森本 奈歌子さん(和歌山県)

「はい、パパ」

「あれ? あの子、なにやってんだろう」

小学1年生の息子の運動会。息子の通う小学校では、1年生にだけ親子で参加する玉入れ競争があります。カゴの付いたポールのすぐ下には子どもたち。子どもを囲むように引かれた円の外側から親は玉を入れなければなりません。

この競技には夫が車椅子で参加しました。夫は息子が1歳8ヵ月のときの再発で両下肢に麻痺が残りました。この玉入れは夫にとっては初めての親子競技です。息子は2歳から保育所に通い、卒園までに4回運動会がありましたが、どの年も親子競技には私が出ました。障害物競走や二人三脚など、車椅子で参加するには難しい競技ばかりだったからです。

夫と息子は紅組。親子それぞれに赤い玉が2個ずつ手渡され、二人は楽しそうに赤いリボンの付いたカゴに向かって、それぞれの位置に陣取りました。

一方、私は少し複雑な気持ちでした。たった2個――。手にある2個の玉を放ったあと、夫は玉を拾うことはできません。競技中、車椅子で動き回るのは危険すぎます。

パン! 競技開始。息子は自分の玉を投げ、すぐさま地面のこぼれ玉を拾いました。ところが、彼はそのままカゴに背を向け走り出したのです。「あれ!?」でも次の瞬間、合点がいきました。息子は夫に玉を届けに行ったのです。夫が投げ、息子がこぼれ玉を拾って手渡す、それが競技のあいだずっと続きました。

競技の後もどってきた夫に聞けば、二人の間には何の打ち合わせもなかったとのこと。

ああ、成長しているんだ。息子は自分の父親の、健康なころを知りません。「パパは玉が拾えない、だから届ける」ただそれだけの、自然な行動なのでしょう。夫の笑顔と息子のやさしさに触れ、温かな思いで運動会は暮れました。